本記事では、オフィス物件を探している経営者や総務担当者の方々に向けて、ビルの新耐震基準と旧耐震基準の違いについて詳しく解説します。2024年能登半島地震の発生により、改めて注目が集まっているビルの耐震性能について、基準の歴史的な変遷から具体的な見分け方まで、わかりやすく説明していきます。また、耐震構造の種類や家具の転倒防止対策など、実務に役立つ安全対策もあわせて紹介しますので、安全性の高いオフィスビル選びを検討されている方は、ぜひ参考にしてください。
ビルの耐震基準には「新耐震基準」「旧耐震基準」の2種類がある
オフィスビルの耐震基準は、1981年(昭和56年)6月1日の建築基準法改正を境に、それ以前の「旧耐震基準」とそれ以降の「新耐震基準」に大きく分けられます。この改正は、1978年の宮城県沖地震での被害を教訓に行われ、建物の耐震性能が大幅に強化されました。新耐震基準では、震度6強~7程度の大地震に対しても建物が倒壊せず、人命を保護することを目標としています。このため、オフィスビル選びにおいて、竣工年による耐震基準の確認は非常に重要な判断材料となっているのです。
【早見表】新耐震基準と旧耐震基準の違い
「新耐震基準」とは
新耐震基準は、1981年の建築基準法改正によって導入された、より厳格な耐震基準です。この基準では、震度5程度の中規模地震に対して建物が損傷を受けないことに加え、震度6強から7程度の大規模地震に対しても建物の倒壊を防ぎ、人命を保護することが要求されています。具体的には、建物の耐震性能を示す指標である「耐震性能基準値」が1.0以上必要とされ、建物の構造部材や接合部の強度が大幅に強化されました。これにより、阪神・淡路大震災や東日本大震災においても、新耐震基準で建てられた建物の被害は相対的に少なかったことが報告されているのです。
「旧耐震基準」とは
旧耐震基準は、1981年5月31日以前に建てられた建物に適用されていた基準です。この基準では、主に震度5程度の中規模地震による建物の損傷防止を目的としており、現在の新耐震基準と比較すると要求される耐震性能は低く設定されていました。具体的には、耐震性能基準値が0.7程度であり、大規模地震に対する建物の安全性が十分に考慮されていなかったと言えます。ただし、旧耐震基準の建物であっても、その後の耐震診断や耐震改修工事によって、新耐震基準と同等以上の耐震性能を確保している場合もあるため、築年数だけでなく耐震改修の履歴も重要な確認ポイントとなっています。
耐震基準の歴史
日本の耐震基準は、大きな地震被害を教訓として段階的に強化されてきました。特に1981年、1995年、2011年の3つの転換点において、重要な見直しが行われています。それぞれの改正では、当時の最新の地震学の知見や建築技術の進歩を反映し、より安全な建築基準が確立されていきました。ここでは、各時代における耐震基準の変遷について詳しく解説します。
1981年の大転換点となった新耐震基準の制定
1981年の新耐震基準制定は、1978年の宮城県沖地震による甚大な被害を直接の契機として実現しました。この改正では、それまでの震度5程度の中規模地震のみを想定した基準から、震度6強から7程度の大規模地震への対応も義務付けられることとなりました。具体的には、建物の層間変形角や剛性率、偏心率などの具体的な数値基準が設けられ、建物の強度計算方法も大幅に見直されました。また、この基準改正により、建物の構造設計において、地震時の建物の変形を考慮した動的解析の導入が進み、より実態に即した耐震設計が可能となったのです。
1995年の阪神・淡路大震災で見直された耐震基準
阪神・淡路大震災では、旧耐震基準の建物を中心に多くの被害が発生し、新耐震基準の有効性が証明される一方で、さらなる改善点も明らかになりました。この経験を踏まえ、1995年以降、建物の部材接合部の設計基準が強化され、特に鉄骨造建物における溶接部の品質管理が厳格化されました。また、既存建築物の耐震改修促進法が制定され、旧耐震基準の建物に対する耐震診断・改修が本格的に推進されることとなりました。これにより、建物の耐震性能を総合的に評価する手法が確立され、より実効性の高い耐震対策が可能となったのです。
2011年の東日本大震災を経て強化された基準
東日本大震災では、地震の揺れだけでなく、津波や長周期地震動による被害も大きな課題となりました。この教訓を活かし、2011年以降、高層建築物における長周期地震動対策が強化され、免震・制震装置の設計基準も見直されました。特に、超高層ビルについては、長周期地震動に対する構造安全性の確認が義務付けられ、より詳細な解析による検証が必要となりました。また、非構造部材(天井材や設備機器など)の耐震基準も強化され、建物全体としての総合的な安全性確保が重視されるようになったのです。これらの改正により、現代の耐震基準は世界的に見ても最高水準の安全性を確保しています。
オフィスビルに採用される3つの耐震構造
オフィスビルの地震対策において、建物の構造選択は極めて重要な要素となります。現在、主に採用されている構造は「耐震構造」「制震構造」「免震構造」の3種類であり、それぞれに特徴とメリット・デメリットがあります。建物の規模や用途、建設コスト、地盤条件などを総合的に考慮して、最適な構造が選択されています。ここでは、各構造の特徴と採用時のポイントについて解説します。
耐震構造
耐震構造は、最も一般的に採用されている構造形式です。建物自体の強度を高めることで地震の揺れに耐える仕組みで、柱や梁などの構造部材を頑丈にし、適切に配置することで地震エネルギーに対抗します。具体的には、鉄骨や鉄筋コンクリートなどの強度の高い材料を使用し、耐力壁や筋交いを効果的に配置することで建物全体の剛性を確保します。また、建物のバランスを考慮した設計により、地震時の変形を抑制する工夫も施されています。比較的コストを抑えられる反面、大地震時には建物に一定の損傷が生じる可能性がありますが、人命保護という観点では十分な性能を発揮できる構造となっています。
制震構造
制震構造は、建物内に特殊な装置(ダンパー)を設置して地震エネルギーを吸収する先進的な構造です。オイルダンパーや粘性ダンパー、鋼材ダンパーなど、様々な種類の制震装置が開発されており、建物の特性に応じて最適な組み合わせが選択されます。この構造の特徴は、地震時の建物の揺れを大幅に低減できることにあり、家具の転倒防止や内装材の損傷防止に高い効果を発揮します。また、地震後の建物の機能維持という観点でも優れており、事業継続計画(BCP)を重視する企業のオフィスビルで採用が増えています。
免震構造
免震構造は、建物と地盤の間に免震装置を設置し、地震の揺れを建物に直接伝えない画期的な構造方式です。免震装置には、積層ゴムやすべり支承、減衰装置などが組み合わせて使用され、地震エネルギーを効果的に遮断・吸収します。この構造の最大の特徴は、大地震時でも建物内の揺れを大幅に抑制できることであり、建物自体の損傷防止はもちろん、内部の設備機器や什器の保護にも極めて効果的です。特に医療施設やデータセンター、本社ビルなど、災害時にも機能の維持が求められる重要施設での採用が進んでいます。
耐震基準と耐震構造という言葉の意味・ニュアンスの違い
「耐震基準」と「耐震構造」は、似て非なる重要な概念です。耐震基準は、建築基準法で定められた建物の安全性に関する最低限の要求性能を示す法的基準を指します。一方、耐震構造は、その基準を満たすための具体的な建物の構造形式を表す技術的な概念となります。つまり、耐震基準は「何を実現すべきか」という目標を示し、耐震構造は「どのように実現するか」という方法を示しているのです。すべての建築物は耐震基準を満たす必要がありますが、それを実現する手段としては、耐震構造のほか、制震構造や免震構造など、様々な選択肢が存在します。
耐震基準に基づくオフィスビル選びのポイント
オフィスビル選びにおいて、耐震性能は最も重要な検討項目の一つです。単に築年数だけでなく、耐震診断の結果や改修工事の実施状況など、複数の観点から総合的に判断することが重要となります。ここでは、安全なオフィスビル選びに必要な具体的なポイントについて解説していきます。
築年数と耐震性能の関係
築年数は耐震性能を判断する上での重要な指標となりますが、一概に古い建物の耐震性能が劣るとは限りません。1981年以降に建設された新耐震基準のビルであれば、基本的な耐震性能は確保されていますが、それ以前の旧耐震基準のビルでも、適切な耐震改修が実施されていれば十分な耐震性能を有している場合があります。特に、1995年の阪神・淡路大震災以降は、多くの旧耐震ビルで耐震改修が行われ、新耐震基準と同等以上の性能を確保することが可能となっています。実際のオフィス選びでは、建築時期の確認に加えて、定期的な構造点検の実施状況や、耐震補強工事の履歴、さらには地盤調査の結果なども重要な判断材料となります。加えて、建物の形状や増改築の有無なども耐震性能に影響を与える要素として考慮が必要です。
耐震診断結果の見方と活用方法
耐震診断結果は、建物の耐震性能を客観的に評価する重要な指標です。一般的な耐震診断では、Is値(構造耐震指標)が評価の基準となり、0.6以上であれば震度6強から7程度の地震に対して倒壊の危険性が低いとされています。ただし、この数値は建物の用途や重要度によって要求される基準が異なります。例えば、一般的なオフィスビルでは0.6以上が目安となりますが、災害時に重要な機能を果たすべき建物ではより高い基準値が求められます。耐震診断結果を確認する際は、Is値だけでなく、建物の形状や経年劣化の状況、地盤条件なども含めた総合的な評価結果を確認することが重要です。また、診断実施時期や診断機関の信頼性、さらには使用された診断手法の妥当性についても慎重な確認が必要とされています。
耐震改修工事の実施状況確認
耐震改修工事の内容と実施時期は、建物の現在の耐震性能を判断する上で重要な情報となります。改修工事では、建物の構造補強だけでなく、非構造部材の補強や設備機器の固定など、総合的な耐震対策が実施されているかを確認することが求められます。具体的には、耐力壁の増設や鉄骨ブレースの設置、柱や梁の補強工事の有無、さらには床や天井の補強状況なども重要な確認項目となっています。また、耐震補強工事後の定期的な点検記録や補修履歴も、建物の維持管理状況を判断する重要な要素です。改修工事の品質を担保する上で、施工会社の実績や工事監理の体制、使用された工法や材料の信頼性についても十分な確認が必要です。さらに、今後予定されている改修計画についても確認し、将来的な耐震性能の維持・向上の見通しを把握することが推奨されます。
オフィス家具の転倒防止対策基準
オフィスの地震対策において、家具の転倒防止は人命保護の観点から特に重要です。東京都の条例では、高さ1.5m以上の家具には転倒防止対策が義務付けられており、適切な固定方法の選択と確実な施工が求められています。ここでは、オフィス家具の安全な設置方法と、具体的な固定手順について解説していきます。
キャビネットや収納棚の固定方法
キャビネットや収納棚の転倒防止対策は、家具の種類や設置場所に応じて適切な方法を選択する必要があります。背の高い収納家具には、L字金具やつっぱり棒による上下固定が基本となり、特に高さ1.5m以上の家具には複数箇所での固定が推奨されています。また、地震時の揺れによる収納物の飛び出しを防ぐため、扉には耐震ラッチの設置が必要です。固定具の選定では、壁面の構造や床材の種類を考慮し、適切な強度を持つ製品を使用することが重要です。さらに、収納物の重心バランスにも注意を払い、重いものは下段に収納するなど、基本的な配置ルールも併せて実施することが求められます。
デスク周りの安全確保のポイント
デスク周りの安全確保では、作業スペースの確保と避難経路の確保を両立させる必要があります。デスクの配置は、壁から30cm以上離すことで、地震時の衝突による破損を防ぎ、同時に避難経路としても活用できます。また、デスク上のパソコンやディスプレイには、専用の固定具や耐震ジェルを使用し、落下防止対策を施す必要があります。サイドワゴンやデスクトップの収納ボックスについても、滑り止めシートの使用や固定具による設置が推奨されています。特に、キャスター付きの家具は、必ずストッパーを設置し、地震時の移動を防止することが重要です。
壁面・床面の種類別固定手順
壁面や床面の構造によって、適切な固定方法は大きく異なります。コンクリート壁への固定では、アンカーボルトやコンクリート用のビスを使用し、十分な強度を確保する必要があります。一方、軽量鉄骨下地の壁面では、下地材の位置を確認し、それに合わせて固定具を設置することが重要です。床面がフリーアクセスフロアの場合は、パネルへの直接固定は避け、支持脚やフロア本体への固定が推奨されます。また、カーペットやクッションフロアなどの床材がある場合は、下地材まで到達する長さの固定具を選択する必要があります。特に、OAフロアでの固定では、配線スペースを考慮した専用の固定具を使用することが求められます。
高層オフィスビルにおける耐震・防災対策
高層オフィスビルでは、一般的な耐震対策に加えて、長周期地震動への対応や、高層階特有の揺れの制御が重要となります。特に、制震装置や振動制御装置の導入により、建物全体の揺れを抑制する対策が不可欠です。また、停電時のエレベーター対策や、一時避難スペースの確保、非常用発電設備の整備など、高層建築特有の防災対策も重要な要素となります。さらに、定期的な防災訓練や、各フロアでの災害時対応マニュアルの整備など、ソフト面での対策も含めた総合的な防災体制の構築が求められています。
まとめ
オフィスビルの耐震対策は、建物の構造的な安全性確保から、具体的な室内の安全対策まで、多岐にわたる取り組みが必要です。特に、新耐震基準と旧耐震基準の違いを理解し、適切な耐震性能を有するビルを選択することが重要です。また、オフィス家具の転倒防止対策や、高層ビル特有の防災対策など、きめ細かな安全対策を実施することで、より安全な職場環境を実現することができます。耐震対策は一度実施して終わりではなく、定期的な点検と見直しを行い、常に最新の基準や技術を取り入れていくことが重要です。

