オフィスの居抜き退去とは?原状回復費をゼロに近づける手順とオーナー交渉のコツ【2026年版】
オフィスの退去で最も大きなコストは原状回復費です。相場は坪あたり5〜10万円、30坪なら150〜300万円が退去のためだけに消えていきます。この負担を大きく減らせる可能性があるのが、内装を次のテナントに引き継いで退去する「居抜き退去」です。
ただし居抜き退去は、借主が当然に選べる権利ではありません。オーナーの承諾、後継テナントの確保、造作譲渡の合意という3つの条件が揃って初めて成立します。この記事では、居抜き退去の仕組み、実際の手順、オーナー交渉の進め方、うまくいかない典型パターンまでを実務目線で解説します。
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居抜き退去の仕組み
通常のオフィス退去では、借主が内装・造作を解体してスケルトン状態に戻し、オーナーに明け渡します。居抜き退去では、この解体を行わず、内装・什器を残したまま退去します。残した造作は、後継テナントに譲渡するか(造作譲渡)、オーナーに無償で引き渡します。
退去する借主にとってのメリットは明確です。
- 原状回復工事費(坪5〜10万円)がかからない、または大幅に減る
- 解体工事期間が不要になり、その分の賃料負担も消える
- 造作譲渡料として内装の対価を受け取れるケースもある
後継テナントは内装工事なしで入居でき、オーナーは空室期間を短縮できるため、条件が揃えば三者全員が得をする仕組みです。実際、当社データベースでも東京の募集中区画のうちセットアップ・居抜き区画は約620件・7%弱を占めており(2026年8月時点)、「内装付きのまま貸す・借りる」という流通は年々広がっています。
大前提: オーナーの承諾がすべて
居抜き退去を進める前に、必ず押さえておくべきことがあります。賃貸借契約書には原状回復義務が定められており、居抜き退去はその義務をオーナーの承諾によって免除・変更してもらう行為だということです。
オーナーが承諾しない理由には合理性があります。残された内装が次の募集の妨げになる(好みが分かれる、老朽化している)、後継テナントの与信が不明、造作の所有権や修繕責任の所在が曖昧になる、といったリスクをオーナーは負うことになるからです。
したがって居抜き退去の交渉は、「原状回復したくない」という自社都合ではなく、オーナーのリスクをどう消すかという組み立てで臨む必要があります。具体的には、後継テナント候補を連れてくる、内装の状態が良いことを示す、造作の帰属と修繕責任を書面で明確にする、の3点です。
居抜き退去の手順(6ステップ)
ステップ1: 契約書の確認(退去検討開始時)
まず自社の賃貸借契約書で、原状回復条項と造作買取請求権の扱いを確認します。「造作買取請求権を放棄する」条項は一般的ですが、これは居抜き退去を禁止するものではなく、オーナーに造作の買取を請求できないという意味です。居抜き(造作残置)の可否自体は、契約に明示がなければオーナーとの個別協議になります。あわせて解約予告期間(3〜6ヶ月が一般的)を確認し、全体スケジュールを引きます。
ステップ2: オーナー・管理会社への打診(解約予告と同時か、その前)
解約予告を出す際に、居抜き退去の意向を伝えます。このとき「原状回復を免除してほしい」とだけ伝えるのではなく、内装の写真・図面、設置した設備のリスト、メンテナンス状況を資料としてまとめて渡すと、オーナー側が検討しやすくなります。打診が遅れるほど「解体を前提にした募集」が始まってしまうため、早いほど有利です。
ステップ3: 後継テナントの確保(解約予告後すぐ)
居抜き退去の成否は、実際にはここで決まります。オーナーが承諾を渋る最大の理由は「残した内装で本当に決まるのか」という不安なので、後継テナント候補が現れれば話は一気に進みます。方法は主に3つあります。
- 居抜き物件を扱う仲介会社に募集を依頼する
- 自社の取引先・知人ネットワークで探す
- オーナー側の仲介会社に「居抜き可」として募集してもらう
募集期間の目安は2〜4ヶ月です。解約予告期間が6ヶ月なら、前半3ヶ月で決まらなければ通常退去(解体)に切り替える、という撤退ラインをあらかじめ決めておくと、解体工事の手配が間に合わなくなる事故を防げます。
ステップ4: 造作譲渡の条件合意
後継テナントが決まったら、残す造作の範囲と対価を合意します。造作譲渡料は内装の状態・グレード次第で、無償譲渡から数百万円までさまざまです。金額よりも重要なのは範囲の特定で、「何を残し、何を持ち出すか」をリスト化し、電気・空調・配線など設備系の扱いを明確にします。リース品(複合機・ウォーターサーバー等)は譲渡対象にできないため、リース会社との精算を別途進めます。
ステップ5: 三者(四者)での書面化
退去者・後継テナント・オーナー(+管理会社)の間で、造作の帰属、原状回復義務の承継、修繕責任の所在を書面にします。実務でよく使われる形は、退去者とオーナーの間で「原状回復義務の免除(または範囲縮小)の合意書」、退去者と後継テナントの間で「造作譲渡契約書」を結び、オーナーが後継テナントとの新賃貸借契約に「現状有姿で引き渡す・退去時の原状回復範囲」を明記するというものです。後継テナントの退去時に誰がどこまで原状回復するのかを曖昧にしたまま進めると、数年後に必ず揉めます。ここだけは書面化を妥協しないでください。
ステップ6: 引き渡し
持ち出す什器の搬出、クリーニング、鍵・設備説明書類の引き継ぎを行い、敷金の精算を確認して完了です。原状回復工事が発生しない分、通常退去より明け渡しはシンプルに終わります。

居抜き退去が失敗する典型パターン
| 失敗パターン | 原因 | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| 後継テナントが見つからず、解体工事が間に合わない | 撤退ラインを決めずに募集を引っ張った | 「予告期間の残り3ヶ月」など通常退去への切替期限を最初に決める |
| オーナーに打診した時点で断られる | 自社都合だけで交渉した/打診が遅かった | 内装資料・後継候補・書面化案をセットで早期に提示する |
| 引き渡し後に設備故障の責任を問われる | 造作の帰属・修繕責任が書面で特定されていない | 譲渡リストと責任分担を契約書に明記する |
| 造作譲渡料の期待が高すぎて商談が流れる | 内装の市場価値を過大評価 | 譲渡料はゼロベースで考え、原状回復費の削減自体を利益とみなす |
| リース品・レンタル品を残してしまう | 所有権のない物を譲渡対象に含めた | リース契約の精算を先に確定させる |
居抜き退去と居抜き入居はセットで考える
居抜き退去を検討する企業の多くは、移転先でも初期費用を抑えたいはずです。移転先の選択肢は大きく2つあります。
1つは居抜き入居(前テナントの内装を引き継ぐ)です。内装工事費はほぼゼロになりますが、内装の状態・デザインは前テナント次第で、退去時の原状回復範囲が契約上複雑になりやすい点に注意が必要です。詳しくは居抜きオフィスのメリット・デメリットの記事で解説しています。
もう1つはセットアップオフィス(オーナーが新品の内装・什器を用意)です。居抜きと同じく内装工事不要で、品質が安定しており、退去時も持ち込み品の撤去と清掃が中心で済みます。「今回の退去で原状回復に懲りたので、次は退去が軽い物件にしたい」という企業には、構造的に原状回復が小さいセットアップが向いています。東京のセットアップオフィス一覧から現在の募集状況を確認できます。
居抜き退去に関するよくある質問
Q. 契約書に「スケルトン戻し」と書かれていても居抜き退去はできますか?
A. 可能性はあります。原状回復特約は退去者とオーナーの合意で変更できるため、特約の存在は「オーナーの承諾がなければできない」ことを意味するだけで、「絶対にできない」ことを意味しません。後継テナント候補を用意して交渉すれば、特約を修正する合意書を結べるケースは実務上多くあります。
Q. 造作譲渡料はいくらぐらいが相場ですか?
A. 決まった相場はなく、無償〜数百万円まで内装の状態と需要次第です。築浅で状態の良い会議室・執務室が造作済みの場合は値が付きやすい一方、使い込んだ内装は無償でも「解体費がかからないだけ得」と考えるべきです。譲渡料を退去の前提条件にすると商談が流れやすくなります。
Q. 後継テナントはどうやって探せばいいですか?
A. 居抜き物件を扱う仲介会社への依頼が基本です。あわせてオーナー側の募集窓口に「居抜き可」で募集してもらえるよう依頼し、自社ネットワークにも声をかけると早く決まります。募集開始から2〜4ヶ月が勝負で、決まらない場合の切替期限を先に設定しておくことが重要です。
Q. 居抜き退去でも敷金は返ってきますか?
A. 返ってきます。むしろ原状回復費の控除がなくなる分、通常退去より返還額は増えるのが普通です。未払賃料等の控除を除き、明渡し後に返還されます(民法622条の2)。返還時期は契約書の定めを確認してください。
Q. 一部だけ残して一部は撤去する、という形はできますか?
A. できます。実務でも「会議室・パーテーションは残置、ブランド色の強い造作は撤去」といった部分居抜きはよくあります。残す範囲をリストで特定し、撤去部分の工事範囲を見積もりに正しく反映させることがポイントです。
まとめ
- 居抜き退去は原状回復費(坪5〜10万円)と解体期間の賃料を削減できる退去方法
- 成立条件は「オーナーの承諾」「後継テナントの確保」「造作譲渡の書面化」の3つ
- 交渉はオーナーのリスクを消す組み立てで。内装資料と後継候補をセットで早期に提示する
- 撤退ライン(通常退去への切替期限)を最初に決めておけば、最悪でも通常退去に着地できる
- 次のオフィスは居抜き入居かセットアップオフィスを選べば、入居時も退去時も費用構造が軽くなる
退去も移転も、費用構造から見直す
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