前のテナントが使っていた内装や設備を残したまま、次のテナントが入居する「居抜き」のオフィスでは、その内装や設備を前のテナントから買い取ることがあります。これが造作譲渡です。入居の工事を減らせる一方で、契約の相手が複数になり、退去のときの原状回復や税金の扱いで確かめることが増えます。
この記事では、造作譲渡の仕組みと関係する人、貸主の承諾、造作買取請求権、退去のときの原状回復、税金(耐用年数と消費税)、居抜きのオフィスを借りる前に確かめることを、法令と国税庁・国土交通省の資料、オフィスビルの標準契約書の雛型をもとにまとめます。
造作譲渡とは
造作とは、借りた建物に付け加えた内装や設備のことです。オフィスなら、間仕切りや会議室、床や壁の仕上げ、照明、空調、受付のカウンターなどが当たります。造作譲渡は、退去する借主が自分で付けた造作を、次に入る借主に売ることをいいます。
公益財団法人不動産流通推進センターの相談事例では、事業用の物件の賃貸借では、原状回復の工事をせずに前の借主の設備などを残したまま次に貸す「居抜き」を条件とすることも広く見られ、退去した借主の設備などは、所有権を放棄する場合も、新しい借主に譲渡する場合もあるとされています。
造作譲渡にかかわる3者
造作譲渡では、造作を売る前の借主、買う新しい借主、建物を貸す貸主の3者がかかわります。造作の売買は前の借主と新しい借主の間の取引ですが、新しい借主が建物を借りる契約は貸主と結び、前の借主の退去や原状回復の扱いも貸主との取り決めになります。
| だれと だれの間 | 取り決めること |
|---|---|
| 前の借主と 新しい借主 | 造作の範囲と状態、 代金、引き渡しの日 |
| 貸主と 前の借主 | 造作を残して 退去すること、 原状回復の扱い |
| 貸主と 新しい借主 | 賃貸借契約、 造作を残した入居、 退去のときの原状回復 |
貸主の承諾は要るか
民法612条は、借主が賃借権を譲り渡したり、物件を又貸ししたりするには、貸主の承諾が要るとしています。ただし、これは賃借権と物件そのものについての決まりで、造作の売買そのものに貸主の承諾を求める条文ではありません。
一方で、実際の契約では貸主の承諾が必要になる場面が多くあります。日本ビルヂング協会連合会が公開しているオフィスビルの標準契約書の雛型(2026年2月更新)では、借主が造作や設備を新設・付加・除去・改造するには、事前に貸主の承諾が要るとされ、契約上の権利を他人に譲ることも禁じられています。さらに、退去のときには借主が自分で付けた造作を撤去して元に戻すのが原則なので、造作を残して退去するには、貸主との取り決めが欠かせません。居抜きの話は、まず貸主に相談するところから始めます。
造作買取請求権
借地借家法33条は、貸主の同意を得て建物に付け加えた造作(貸主から買った造作も同じ)について、賃貸借が期間の満了や解約の申入れで終わるときに、借主が貸主に時価で買い取るよう請求できると定めています。これを造作買取請求権といいます。
借地借家法37条は、借主に不利な特約を無効とする規定の対象に31条・34条・35条を挙げていて、33条は入っていません。このため、造作買取請求権を使わないという特約は、借地借家法の規定では無効にならないと読めます。実際に、先の標準契約書の雛型には、明け渡しのときに借主が造作の買取請求をしないという条項があります。居抜きで引き継いだ造作を、退去のときに貸主に買い取ってもらえると考えないほうが安全です。
退去のときの原状回復は、だれが負うか
民法621条は、借主が物件を受け取った後に生じた損傷を、賃貸借が終わったときに原状に戻す義務を定めています(通常の使用による損耗と経年変化は除く)。民法622条(599条の準用)は、借主が受け取った後に付け加えた物を、終わったときに取り除く義務を定めています。
居抜きで入った借主が退去するときに、前の借主が付けて自分が引き継いだ造作まで撤去する必要があるのかは、法令で決まっているわけではなく、契約で決まります。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は民間の賃貸住宅を想定したもので、オフィスの原状回復の範囲をそのまま決めるものではありません。同じガイドラインは、オフィスビルの賃貸借で、借主は通常の使用による損耗も含めて借りた当時の状態に戻す義務があるとした裁判例(東京高裁 平成12年12月27日判決)も紹介しています。
このため、居抜きで借りるときは、退去のときにどこまで戻すのか(引き継いだ造作も撤去するのか、スケルトンまで戻すのか、そのまま次の借主に引き継げるのか)を、入居の前に貸主と書面で決めておくことが大切です。原状回復の費用の考え方はオフィスの原状回復費用の相場、退去する側の進め方はオフィスの居抜き退去で扱っています。
造作譲渡の契約書に入れておきたいこと
造作譲渡は、前の借主と新しい借主の間で結ぶ売買の契約です。あとで食い違いが起きないよう、少なくとも次の点を書面にしておきます。
譲り渡す造作の一覧と状態
間仕切り、照明、空調、受付のカウンター、会議室の設備など、譲り渡すものを一覧にし、写真を添えて状態を残します。一覧にない物を誰が撤去するのかも決めておきます。
引き渡しの日と、代金の払い方
引き渡しの日を、前の借主の退去の日と新しい借主の賃貸借契約の始まりに合わせて決めます。代金の額、税込みか税抜きか、払う時期も書きます。
引き渡しの後に不具合が見つかったときの扱い
空調や照明が引き渡しの後に動かなくなったとき、修理の費用をどちらが持つのかを決めておきます。中古の設備を引き継ぐので、どこまでを売る側の責任にするかを、事前に話し合っておくと安心です。
貸主の了解が得られなかったときの扱い
造作を残すことや、新しい借主との賃貸借契約について、貸主の了解が得られなかった場合に、造作譲渡の契約をどうするか(効力を生じないことにするなど)を決めておきます。

代金の決め方の考え方
造作の代金に決まった相場はなく、当事者の交渉で決まります。考える材料になるのは、造作の状態と残りの使える年数、新しい借主が同じものを新しくつくった場合にかかる費用、前の借主が撤去や原状回復の工事をせずに済む分、次の退去のときに新しい借主が負う撤去の費用などです。引き継いだ造作を次の退去のときに撤去する取り決めなら、その費用の分を代金から差し引いて考えるのが自然です。
造作譲渡の税金
買った造作の耐用年数
他人の建物に付けた造作は、建物についてのものなら、その建物の耐用年数や造作の種類・用途・使用材質などを考えて合理的に見積もった耐用年数で、建物附属設備についてのものなら、その耐用年数で償却します(耐用年数の適用等に関する取扱通達1-1-3)。
中古の資産を買って事業に使う場合は、使い始めてから使える期間を見積もって耐用年数にできます。見積もるのが難しいときは、「法定耐用年数から経過年数を引いた年数に、経過年数の20%を足した年数」(簡便法)を使え、2年未満なら2年にします(減価償却資産の耐用年数等に関する省令3条)。国税庁は、法定耐用年数30年・経過年数10年の例で、20年+2年=22年としています。見積もりや簡便法による耐用年数は、使い始めた事業年度にしか決められません。内装工事の耐用年数の全体は内装工事の耐用年数と勘定科目にまとめています。
消費税
国税庁は、事業に使っていた建物や機械、備品などを対価を得て売ることを、消費税の課税の対象になる資産の譲渡としています(消費税法4条1項、消費税法基本通達5-1-7)。事業に使っていた造作を次の借主に売る造作譲渡も、これに当たると考えられます。代金が税込みか税抜きかを契約書で明らかにし、処理は税理士に確かめてください。
居抜きのオフィスを借りる前に確かめること
造作の一覧と状態
譲り受ける造作を一覧にして、状態を内見で確かめます。空調や照明などの設備は、動くかどうかだけでなく、交換の時期が近いかも聞いておきます。複合機のようにリース契約の機器は、前の借主の持ち物ではないので、譲渡の対象になりません。
造作の持ち主
民法242条は、建物に付け加えられて一体になった物は建物の所有者のものになるとしつつ、権原によって付け加えた人の権利は妨げないとしています。造作が前の借主のものか、すでに貸主のものになっているのかで、だれと取引するかが変わるので、貸主と前の借主の双方に確かめます。
原状回復の範囲と、代金の決め方
退去のときにどこまで戻すのかを貸主と書面で決め、その負担も考えたうえで造作の代金を交渉します。引き継いだ造作を退去のときに撤去する取り決めなら、その撤去の費用も見込んでおきます。
消防への届出と、手を入れる工事
東京消防庁の管内では、内装の工事をしない居抜きの入居でも、使い始める日の7日前までに防火対象物使用開始届が要ります。間取りを変える工事をするなら、工事等計画届も要ります(防火対象物使用開始届と、オフィスの入居・内装工事で消防に出す届出)。
居抜きと、貸主が内装を用意するセットアップオフィスの違いはセットアップオフィスと居抜きオフィスの違いで比べています。居抜きオフィスの全体像は居抜きオフィスとはをご覧ください。
よくある質問
Q. 造作譲渡に、貸主の承諾は要りますか?
造作の売買そのものに貸主の承諾を求める法律の条文はありません。ただし、オフィスビルの標準契約書の雛型では、造作の除去や変更に貸主の事前承諾が要り、退去のときは造作を撤去して元に戻すのが原則とされています。造作を残して退去し、次の借主が使うには、貸主との取り決めが要ります。
Q. 居抜きで入ったオフィスを退去するとき、前の借主が付けた内装も撤去しますか?
法令で決まっているわけではなく、契約で決まります。入居の前に、退去のときにどこまで戻すのかを貸主と書面で決めておいてください。
Q. 造作買取請求権は、特約でなくせますか?
借地借家法37条が借主に不利な特約を無効とする対象に33条(造作買取請求権)は入っていないので、借地借家法の規定では、請求権を使わない特約は無効にならないと読めます。オフィスビルの標準契約書の雛型にも、造作の買取請求をしないという条項があります。
Q. 買った造作の耐用年数は何年ですか?
他人の建物に付けた造作は、合理的に見積もった耐用年数で償却します。中古で買った場合は、使える期間を見積もるか、簡便法(法定耐用年数−経過年数+経過年数×20%、2年未満は2年)で決められます。決めるのは使い始めた事業年度です。
Q. 造作譲渡に消費税はかかりますか?
事業に使っていた資産を対価を得て売ることは、消費税の課税の対象になる資産の譲渡とされています。造作譲渡もこれに当たると考えられるので、代金が税込みか税抜きかを契約書で明らかにしてください。
まとめ
造作譲渡は、居抜きのオフィスで、前の借主が付けた内装や設備を新しい借主が買い取る取引です。造作の売買は借主どうしの取引ですが、造作を残して退去することや、次の退去のときの原状回復の範囲は、貸主との取り決めで決まります。
居抜きで借りるときは、造作の一覧と状態、持ち主、退去のときにどこまで戻すのかを入居の前に確かめ、その負担も見込んで代金を決めます。税金では、買った造作の耐用年数を使い始めた年度に決め、消費税の扱いを契約書で明らかにしておくと、あとで困りません。